ベレーのかぶり方
[ミリタリーベレーのかぶり方 その1]



※このページのテキスト本文は、吉本悟が1989年7月に起草し
『PRTISAN 通信/1989増刊』に掲載した文章を2009年5月1日
に加筆してWeb上にアップしたオリジナルテキストです。



<はじめに>
スペインとフランスの国境地域のバスク地方に始まったベレー帽。
バスクは現在スペイン国領ですが、独立運動もある自治州として存在します。
言語体系や文化がまったくスペインやフランスとは異なる独立国でしたが、共和制スペイン時代にファシストに破れ併合され、言葉と国を奪われた歴史があります。
南米のベネズエラとパリに亡命政権が置かれたこともありましたが、国家として再生することができませんでした。
第二次大戦後はフランスにも領土が獲られてしまい、現在はフランスとスペインの両国にまたがる形になった虐げられた歴史を持つバスク地方。
バスクはEU全域の平均的GDPよりも20%以上も高いという大変豊かな土地で、この地方で発祥したベレー帽という帽子をかぶるバスク人は、今もなお大変誇り高く気高い人々として知られます。
歴史的な人物としては、フランシスコザビエルやチェ・ゲバラがバスク人として有名です。
ゲバラがベレー帽を愛したのは、国籍はアルゼンチンだとはいえバスクの血を引く男としての矜持だったのかも知れません。

バスク地方に始まったベレー帽はヨーロッパにおいてはファッションとしてのみならず、第二次大戦前の1924年にイギリス軍が軍帽として導入し、その後、連合王国の連邦だけでなく、敵国であるドイツやイタリアでもイギリスを手本にベレーが採用されました。
イギリス軍に採用されて以来、バスクに始まったベレーは「戦う人」の象徴としてミリタリーウェア=軍服の一部として世界史の中に新たな位置が確立されました。
第二次世界大戦後は、それまで軍帽としてのベレー帽に否定的だった米軍が、1960年代の初めに英国王室海兵隊のグリーンベレーに倣って、緑色のベレーを特殊部隊のエリートフォースの象徴として採用します。
戦後、地球上のあらゆる軍隊でベレーが採用されましたが、日本だけは過去に自衛隊が非公式にブラックベレーを着用していた他はベレーを制式採用していませんでした。
しかし、1990年代に入り、自衛隊の国連派兵が決まると、海外で活動する自衛隊も国連の水色のベレーを着用しました。

ところが、ここでひとつの問題が生じてしまいました。
日本では戦前戦後を通して、それまでベレーといえば、画家がかぶるくらいで、世界で常識的なミリタリーベレーのかぶり方を理解している者は存在しないというような状況でした。
画家に代表されるバスク方式のかぶり方しか知らず、軍帽として独特な形にするミリタリーベレーの着装方法を知らなかったのです。
戦後〜1970年代まで、ミリタリーベレーの正しいかぶり方を知っている日本人は皆無に近かったと言っても過言ではありません。
そればかりか、21世紀を目の前にした1990年代に入っても、まったく着用方法を研究しようともしなければ、かぶり方をマスターしようとする気持ちさえ圧倒的多数の日本人には存在しなかったのです。(一部の正確な知識を有する軍事マニアを除く)

そうした日本人のベレー着装に対する無頓着は、思わぬ結果を世界の人々の目に晒してしまいます。
それは、本職の軍事組織である自衛隊でさえミリタリーベレー帽の正しいかぶり方を知らず、1990年代の初めての海外派兵の時にだらしない着用方法を世界の舞台で披露してしまったことがそれです。

初めての海外派兵の自衛隊員。
折り目も正しくなく、キノコ型にふくらむにまかせ、
極めてデタラメなミリタリーベレーのかぶり方をしている。
世界広しといえども、軍帽をこのようにだらしなく
着用する国はない。軍服の着用としては問題ある姿だ。

だが、世界に出て、自衛隊員は目が覚めたのでしょう。
初期の国連PKO派遣や91式略帽(濃緑色ベレー)採用当初
には上の写真のようなかぶり方をしていた自衛隊員ですが、
1991年に制式化され1992年から配備された濃緑色の91式略帽
の配備が進むにつれ、時間と共に軍帽としてキチンと体裁よく
かぶる隊員が増えてきました。
上層部からも「格好良く被れ」と指導され、広報部も最近は
着装規範を隊員に提示し始めているようです。
また、自衛隊員自身も研究心のある方は自らインターネット
などで資料サイトを研究している模様です。

現在の自衛隊員。上のPKO写真と見比べてほしい。
非の打ちどころのないひきしまったかぶり方。
これならば、世界に出ても恥ずかしくない。

ベレーのかぶり方は、本職の軍事組織に属する自衛隊員でさえベレーが制式化された当初はこのように暗中模索の姿だったのです。
まして、一般的な日本人はベレー帽のかぶり方を現在でもほとんど知りません。
国内で発行されている銃器専門誌でさえ、目を覆いたくなるようなだらしなくデタラメなベレーのかぶり方をした写真をさもお手本のように現在でも自誌に載せたりしています。
さらに、エアソフト(サバイバルゲーム)のゲーマーにあっては、きちんとしたベレーの着用方法を実行している人は殆ど目にすることがありません。
インターネットが普及した現代において、欧米などの海外の軍隊の軍人のベレー画像や資料を容易に目にすることができるのに、軍装コスチュームの日本人が何故自分と外国人との違いに気づかないのか不思議でなりません。
残念ながら、日本人において、軍装の一部としてのベレーのかぶり方の知識は、文明開化以前の状態なのです。
明治維新以降、日本人が背広が似合うまで数十年かかりましたが、このままではいつになったらきちんとしたベレーのかぶり方が日本人に普及するのか、気が遠くなります。
よく、「欧米人と頭骨の形が違うから、日本人はベレーが似合わない」とまことしやかに囁かれますが、決してそんなことはありません。
きちんと「決まりごと」を守り、ポイントを押さえれば、日本人でも格好よくかぶれるのです。上の自衛隊のグリーンベレーがいい例です。
2009年現在、自衛隊の中でベレーが配備されているのは陸上自衛隊だけで、91式略帽という制式名で深緑(ライフルグリーン)のベレーが全部隊に支給されています。幹部・曹用のベレー徽章は布製の刺繍で桜と葉をあしらった物、士用は金属バッヂとなっています。
また、陸上自衛隊の少年工科学校ではレッドベレー(マルーン)を制式化しており、式典などで演技される生徒のドリル(銃を使った演武)では、その整ったドリル技術とともにレッドベレーをビシッと正しくカッコよくかぶっている姿を見ることができます。
これら現在の自衛隊のベレー着装を見ると、海外派兵を開始した初期とは異なり、極めて折り目正しい身づくろいがベレーのかぶり方ひとつにまで時代とともに自衛隊に浸透したことを見てとれると思います。

このように、軍服の着用には厳格な規定というものがあり、米軍や英軍はそれをマニュアル化して厳しく指導しています。ベレーという帽子についても然りなのです。
そして、ベレーのかぶり方は一度コツとキモを覚えると、とても簡単です。
一人でも多くの日本人の方に本来のミリタリーベレーのかぶり方を理解して頂きたく、ここに国内で初めて「ベレーのかぶり方」のサイトコンテンツをアップすることにしました。
このページでは、ミリタリーベレーのかぶり方について外してはならないポイントを解説しています。
私は1980年代初期からベレーを愛用していますが、ファッションライフに、またミリタリーコーディネイトに、このサイトをご覧頂いた方々のライフスタイルがより豊かになることに少しでもお役に立てれば、筆者としても幸いです。

筆者(1986年)


<ミリタリーベレーのかぶり方の基本>
世界各国、とりわけ先進国のミリタリーベレーには決まりごとの共通項があります。
以下、箇条書きで列挙してみましょう。

1.ベレー徽章は左目もしくは右目の上に(ロシア等例外あり)。
2.真横を向いたときにバインディングは真っ直ぐに。
3.徽章と反対側にベレーを垂らす。
4.後ろのサイズ調節紐は外に出さずに中に折り込む(国により例外あり)。

これだけです。
さらに、「絶対にやってはならない」ことを列挙します。

1.真横から見て後ろ下がりにかぶらない。
 (これをやらかしている日本人が実に多い)
2.天頂部(クラウン)をつぶさないままキノコのような盛り上がり型は×。
 (日本人の殆ど、特にエアソフトゲーマーの殆どがこれです)
3.徽章(バッヂ)側の真横側面を膨らませないこと。
 (これも日本人の殆どは無頓着に横を膨らませています)
4.後ろのサイズ調整紐を外に出さない(例外として長い紐を垂らす場合あり)。
5.バインディングを内側に折り込まない。
6.前髪を出さない。
 (よく女の子がやるあれはミリタリー系ではアウトです)



アイソサリーズ+チャップマンホールドで
射撃する筆者。
ベレーの天頂部とバッヂ側のサイドは、
まったく膨れ上がっていない。


別角度。ベレーの垂れは皿型に見える。
正しく着用した場合、斜め前からはこの皿型の
シルエットが出るのがミリタリーベレーの特徴。


さて、ここまでで、かぶり方の基本と「やってはいけない」ポイントはご理解いただけたと思います。
ところが、問題はここから。
つまり、基本前提は理解できても、「どうやったらそのようにかぶれるか」というHOW TOがわからないとキメてかぶることができません。
ネット検索していると、上部をつぶしたり折り返しの型クセをつけるために、帽子の生地を縫い付けてしまったりアイロンをかけたりする人がいるようですが、これは絶対にやってはいけません。
ミリタリーベレー帽というものは、あくまで略帽、戦闘帽、安全帽(戦車兵など)であり、折りたたんでポケットに入れたり、ショルダーストラップに挟んだりするため、縫いつけたりすると変なクセがついてしまうからです。
ベレーにとって最良の状態は、「正規の形にクセもすぐつくが、形状回復も早い」という状態です。生地の弾性をまったく殺してしまうような「縫い付け」は避けるべきです。


<どうやったら形が整うか>
欧米の兵士たちは、どうしてあのようにミリタリーベレーを格好良くかぶれるのでしょう。
それは、簡単な秘密があるからです。
つまり、かぶる前から「型」ができているのです。
言い換えると、「型」を事前につけてしまっているのです。
日本人の多くの場合、買ったばかりの新品のベレーをそのままかぶってしまっているのではないでしょうか。それでは形は新品のときのフンワリした形のままで、いくら型をつけようとしてもキノコのようになってしまいます。
中古実物軍用ベレーを入手したことがある方はすぐにわかると思いますが、本物の兵士がかぶっていた実物ベレーは、すでに兵士によって「型」がつけられているので形がそのままですぐにミリタリーかぶりができるのです。
では、その本物の兵士たちが実行しているベレーの「型つけ」の方法を紹介します。


<型つけの下準備>

ベレー徽章の台座を残し、裏地をすべて取り去ってしまいます。
裏地があると、どうしても頭頂部が膨らみやすいからです。
歴史的に貴重な軍装品や由緒ある品の場合は裏地を残したままにしましょう。
裏地を取り去るのは、あくまで実用品として着用することが前提です。



お湯でベレー帽本体を完全に濡らしてしまいます。



ベレー前側の「返し」の部分を裏から強くつまんで型をつけます。



「返し」の部分を裏側から強くつまんだまま、前垂れの部分の「返し」を折って形をつけます。
この形ができれば、あとは濡れたままかぶって型をつけます。
この「お湯での型つけ」があるとないとでは、かぶった時のベレーの形が大違いなのです。

さて、次ページからは、いよいよ、本題の「かぶり方」に進みます。