TAD
Buddyさんのプレーキュー
<プレーキュー>
■TAD KOHARA■
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【匠の部位】
*TAD KOHARA(父)オリジナル/バーズアイ・メイプル(カーリー、キルテッド混ざり)・ストレート
 1995年製シリアルNo.1560
*ジョイントはいわゆるTAD荒ネジ。シャフト側は木ネジ。フラットフェイス。
*バット全体にTAD独特のオリジナルテーパーが入っている。
*ウエイトボルトは入っていない。それなのに絶妙のバランスを得ている。
*シャフトA:TADオリジナル+カスタム先角(本象牙・渓流スペシャル構造)
*シャフトB:吉村オリジナル+カスタム先角(本象牙・渓流スペシャル構造)

【重  量】バット:440g
  シャフトA(TAD + 先角22o象牙):110g → 合計550g(19.43オンス)
  シャフトB(吉村 + 先角22oLBM):110g → 合計550g(19.43オンス)

【タ ッ プ】
  シャフトA:*ブランズウイック氏橋10トン締めブルー
        *ル・プロ締め
  シャフトB:*ブランズウイック氏橋10トン締めブルー
        *ル・プロ締め

【コメントとTADの思い出】

タッドである。
誰が何と言おうと、タッドなのである。
私にとって、世界一のキューはタッドなのである。
じゃじゃ馬?
全然OKだ。
見越しが多いからハイテクの方がいい?
あんた、見越しの言葉の使い方、間違ってるよ。
手球のトビやズレなどは大きくてもかまわない。
なぜならば、タッドであるから。
タッドはタッドらしくタッドであればいい。
タッドキューを使えるのは、シマザキスペシャルに乗るバリ伝の
グンちゃんなのだ。
ヌルい球を撞きたい奴は、スロットルちょいオープンでドリフト開始の
タッドキューは乗りこなせない。


このキューは1997年に高松のビリヤード吉田でパン職人のタマちゃん(A級)
から譲り受けた宝物。
タマちゃんと初めて出会ったのは、21世紀の数年前、高松の老舗ビリヤードの
ビリヤード吉田だった。
可愛らしい顔して小柄で、最初見た時、女の子かと思った。

  タマちゃん(2007年)

ところがキューを握って玉を撞き出すとポンポン入れてマスワリを連続する
いわゆるマスワリ小僧だった。
ビリヤードのプロになるつもりはなく、パン職人としてプロの道を修行中との
こと。その後、彼はフランスにパン作りの修行に旅立った。
現在は高松市宮脇で Coco Monde というパン屋さんのオーナーをしている。

  Coco Monde

Coco はフランス語でダーリンという意味。それに Monde がつくと「素敵な世界」
という意味になる。フランス語は妖艶だ。
タマちゃんが作るパンはおいしいと四国では有名で、TVや雑誌によく載る。
特製サンドイッチなどは午前中で売切れてしまう。
他のパンも、独特な上品な味で、本場フランス仕込みのタマちゃんの腕が発揮されて
いて、ことのほかウマい。
興味ある方は、ネットで検索してもらえば Coco Monde の評判が分かると思う。
私は出張で高松に泊まった翌朝には、必ずタマちゃんが作ったパンを朝食にすること
にしている。
自分の目標を定めてそれに向かって修行し、20才代後半で自分の店を出すことを実現
させる。大したものだと思う。
純粋で性格もさっぱりしたとてもいい奴で、ビリヤード吉田の兄貴(マスター)も
彼を可愛がっていた。タマちゃんもマスターのことをマスターとは呼ばずに
「おにいちゃん」と呼んでいた。だから私もつられてマスターのことを「おにいちゃん」
と十数年呼び続けている。
吉田の兄貴は大学をすぐにやめて戦後間もない頃から続く店を継いだ人で、裏表のない
とてもいい人。
四つ玉では10本が持ち点(超絶プロ並)で、ポケットビリヤードを初めてやった時、
その日のうちにマスワリを出した。スリークッションを初めてした日、持ち点が15点
で、対戦するうちに、その日のうちに持ち点ハンデを17点19点と相手に吊り上げられた
という。
初代オーナーのお父様もよく存じ上げているが、温厚な人柄で、その父君の薫陶
を受けたのか、息子さんである現マスターもとても感じの良い人。
こういう人が今の世の中にいると、何だか心が洗われる気がする。
私が休み前の出張の時に閉店後も朝まで撞いたりしたら、お好み焼きを買ってきて
くれたり、ドライブがてら一緒に美味しいうどん屋に連れて行ってくれたりする。
(吉田は客が止めるまで店は開け続けるという昔ながらの玉屋のアキナイをしている)

ビリヤード吉田は、そんなマスターが多くの人に好かれ、客足が絶えない。
多くのビリヤード場を見てきたが、店の雰囲気も台も客層もマスターも、私はここが
日本一だと思っている。
ここで知り合ったタマちゃんとのつきあいは、現在も良きタマ仲間(笑)として
続いている。

ビリヤード吉田店内。カウンターに座っている赤いトレーナーがマスターである吉田の兄貴。
カウンター内は助っ人の庄司さん。高松市瓦町駅前の自社ビルの4階部分にある。


店内。台は5台。戦後の箱台(貴重!)から最新型のブランズウイックメトロまである。

そのタマちゃんから譲ってもらったTADだが、スペアシャフトは前オーナーの吉田の
兄貴(マスター)が吉村のおっちゃんに作ってもらった。
このスペアシャフトを着けて青木Pはこのタッドでアマの時ブレイクしてた。
青木ブレイクは、タップにはがれたラシャの繊維がこびりつく程のブレイクで、
いつの間にか吉村シャフトの先角の片面とシャフト先端が偏磨耗してしまった。
それを込みでタマちゃんが譲り受けて、その後私が譲ってもらった。
私が四番目のオーナーで、第四の男という訳だ。
2004年にオリジナルのマンモス先角が浮いてしまったので、私が先角をリペア
に出した。
ついでに、えぐれたように偏磨耗した吉村シャフトもシアノで綺麗にリペア
してもらった。

TADが薄いラッカー塗装にこだわるのには理由がある。
音圧と音質を重視するカスタムアコースティックギターやカスタムバイオリンが
ウレタン塗装でなくセラックなどの昆虫から採取したラッカーにこだわるように、
タッドコハラ師匠は塗膜で阻害されない木の振動係数をとても重視するからだ。
木は製材後も生きている。シーズニングで数十年寝かせた後も呼吸をしている。
それをよく理解しない加工業者は、木を殺す塗装をしてしまう。
私もやってしまった。
8年近く経ち、このキューの塗装がまっ黄色になってしまったので、よく考えも
せずに、二液性のウレタン塗料で自己リペア塗装してしまったのだ。

自主リペアで研ぎ出し途中のTADストレート

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塗装後のTADストレート。
食いつきの悪いデルリン部分まで含めて
丁寧に時間をかけて塗装してあり、塗装自体
を見る限りでは、かなり上手く塗れた方。
しかし、そこに大きな落とし穴が・・・











塗装がうまく行って、すっかり喜んでいたのもつかの間、試し撞きしてみると
どうにも以前のTADらしさがない。
しかも、じゃじゃ馬はじゃじゃ馬なりで挙動が感知しやすかったTAD本来の
挙動がまったく隠れてしまっていた。
動きが鈍い割りには、すっとんきょうな球ズレが突然出たりする。
エンジンをレッド近くに回してパワーバンドにぶち込んだ時にはじめて出る咆哮
というTAD本来の動態特性ではなく、エンジンパワー曲線の中に谷が不規則に
散在するような、とてもつかみどころのないキューになってしまった。
たった数ミクロンの塗装の違いだけなのに、全然別なキューになってしまった。
以前、東京の知り合いの進藤さんという人が、人気の自己サイトDame de motomoto
「キューのニスをすべて落としてなんとなく使ってみたらこれが結構よくて」
と書いていたことを思い出した。
ここで、私はTADが経年変化で汚い黄色に変色するにもかかわらず、なぜラッカー
使用しているのか、その意図にやっと初めて思いが至ったのである。
TAD遣いとして、まったくもって恥ずかしい限りだ。
むしろ、TADのリペアはオイルフィニッシュか、もしくは初期出荷とまったく同じ種類の
ラッカーで極薄に仕上げるのが理想的なのかも知れない。
特に、このストレートはTADが製作するキューの中で一番低価格のものであり、
低価格ながら、ひと撞きしてみれば目をつぶっても「ああ、これはTAD」と分かる
撞き味で、目を明ければそこにはTAD特有の手玉の動きが広がるキューだったのだ。
コレクターアイテムとしてでなく、戦闘機のように、あるいは戦うレーシングバイク
のように、実用アイテムとしてTADキューを選択するならば、外見がキチャナイからと
安易にリペアで再塗装するのは厳禁だ、と私は思う。
TAD親子の工房では、そういったことまで含めて、深〜〜〜いこだわりのあるキューを
製作しているのだ。

カリフォルニア州オレンジカウンティにある Tad's Costom Cues 工房


ファンシーなTADはストレートのように一本物でなく、このようにフォアアームが分解されてインレイハギを形作る。


リヤスリーブに収まるリングワークはパーツとして
このようにストックされる。


TAD父が日本の歌舞伎公演を観劇した際に、ざぶとんから
ヒントを得てデザインした通称「ざぶとんデザイン」。
ざぶとんの中央には家紋がディフォルメされ、これに
昔からTADのトレードマークである弓矢の羽根の細かい
木工インレイが添えられる。
昔はこの矢羽根のデザインにも真っ白なデルリンの
ロングエンドキャップが使われていたが、最近は矢羽根
には別の素材のエンドキャップが組み合わされている。
矢羽根にホワイトデルリンのTADは珍しく希少だ。


ざぶとん矢羽根にホワイトデルリンのTAD。
これに6剣のフォアアームのモデルが私がTADの中で一番好きな
デザイン。
このモデルは黒いざぶとんの外の白い四角部分もホワイトデルリン
で作られている。


これもざぶとん矢羽根にホワイトデルリンのTAD。
このモデルは黒いざぶとんの外の白い四角部分にホーリーウッド
もしくはメイプルが使用されている。こちらも珍しい。
よく見ると分かるが、四角いリング部分が上の物と違うデザイン
でチェーンがつながる意匠にしている。


さて、私のTADストレート#1560は、このキューを気に入ってくれていた
友人のところにお嫁に行った。
でも、彼も以前と違う打感にちょっと落胆したようだ。
なんだか悪いことしたみたいだ。
私がいじくりまわして、本来のTADの味を殺してしまっていたのだから。
そうねぇ、美味い料亭のグジ(白アマダイ)の煮付けにデミグラスソースを
ぶっかけるようなことをしたのだから。
そんなのあげても、彼も私もブランドマニアじゃないのだから「いらね」と
なるのがオチだ。
数か月経った2007年の12月半ば、突然宅配便で箱が届いた。
すご腕リペアマンである彼は、独自の見解でリペアを試みていた。
オリジナルへと蘇生させる、本当の意味でのリペアだ。
届いた箱を開けてみて驚いた。


あまりに綺麗で、素手で触るのがためらわれ、思わず刀剣観賞用の白手袋で
取り出してしまった。


しかも、オール塗装リペアだけでなく、糸巻きもTADオリジナルリネンを
ことのほか綺麗に巻いて、TADと同じようなラップコーティングがしてあった。
彼によると、塗装をごくごく薄く塗って、糸巻きの下地を十二分に整えたと
のこと。
この巻きの下地はすごく大切なのだけど、糸巻きや革巻きの下地を手抜きする
リペアマンの多いこと多いこと。下地をツンツルテンにしてるかしてないかで
巻きの仕上がりに大きな差が出るのは歴然で、「どうせ手で汚れるんだからいい
んだよ」なんて言うリペアマンもいて、看板出しているのが信じられない。
そういうリペアマンが巻いた糸は隙間だらけだったり、デコボコだったりして
納品後に厚ガラスのボトルネックで懸命にローラーかけてもピタリとはしない。
昔から「仕事を見て職人を見ろ」とはよく言ったもので、人格や人柄などはどう
でもいい。ただ、仕事の出来の一点にこそ、その職人の存在そのものが凝縮されて
いる。仕事もいい加減で人格も適当だとしたら最悪の組み合わせで、取り柄はない。
その点、この友人には仕事ぶりにおいて絶大な信頼を私は置いている。

さて、その友人から添えられたメールには「しばらくお里帰りさせますので、使って
みて下さい」とのことだった。
地元の友人たちに見せたら、あまりに綺麗過ぎて彼らも「う!わ!」と言ったきり
しばらく言葉を失う、という私と同じ状態になった。
でも、リペアした友人のお言葉に甘えて撞かせてもらった。
大きく変わっていた。
このTADが持っていた本来の姿に限りなく近づいていたのだった。
それは、撞き手のフォームに端的に現れていた。

私の自主リペア(厚塗り)の後のフォーム。

変な挙動が起きるのでTAD遣いのフォームでなく、トン撞きのシュータータイプのスタイルで
キューの能力不足と変則挙動を乗り越えようとしている。
右手もつとめて前を持ち、ショートストロークでキューを利かせないトン撞き。
これはTADの撞き方ではない。

本職リペア(極薄塗り)後のフォーム。

TAD本来の挙動が起きるので挙動を感知しやすく、TAD遣い本来の構えで長めの
フォロースルーを出すTADスタイル。いわゆる立花正雄系のフォーム。
ギュンギュンにキューを切らせてTAD本来の持ち味を如何なく発揮させ、かつ十分に手玉
と的球を制御できる。それでいて「入れ」に不安はない。



たった数ミクロンの塗りの差でこうも違うものかと驚いた。
ショーンのようにキンキンにクリアで固める方向とはまったく違う方向性でキューの
振動収束と動きを得ているのがTADキューだといえる。
ただし、友人のリペア後でも、TADオリジナルの時の挙動と完全に同じではないが、
限りなくオリジナルに近づいていることは確かだ。
音もズピンッというTAD独特の音を奏でており、撞いていて心地よい。


「ヒネリを使うならばハイテクシャフトを」という現代の日本固有の趨勢を
世界的な普遍性と鵜呑みにするならば、カスタムクラフトマンが作るキューは
すべて死滅していく未来しかもち得ないだろう。
私はキューが好きだし、カスタムキューが好きだ。
なぜならば、カスタムを握って台の前に立つ時、それはキューを作った職人と
共に立つことができるからだ。
キューを通して、それを作った職人の魂に触れることができるからだ。
カスタムキューは、剣士が手にする刀にとてもよく似ている。
TADは、研ぎ澄まされた切れ味の鋭い入魂の剣だ。






TADのトレードマークには天使の輪が描かれている。
この輪はオーラを意味する。
まさにTADキューの存在にふさわしい。
TADがもたらす静謐は、ゴスペル(福音)だ。
独特の澄んだ音、軌跡、光と影、点と線。
テーブルというキャンバスに描き出されるのは、TADならではのアートだ。
私は確信する。
TADを超えるものは、TADにしか存在しない。






渓流詩人のキュー/目次